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博物館って?

博物館って何なのでしょう。博物館と名が付けば博物館なのでしょうか。では、「新横浜ラーメン博物館」は博物館で、「郷土資料館は博物館ではないのでしょうか?


【博物館とは何でしょう】

「博物館法」における「博物館」の定義

まずは「博物館法」による定義を見てみましょうか。「博物館法」第二条では、以下のように博物館を定義しています。
引用:(定義)博物館法第二条
この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、 民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む、以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行ない、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(社会教育法による公民館及び図書館法<昭和二十五年法律第百十八号>による図書館を除く。)のうち、地方公共団体、民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立行政法人<独立行政法人通則法[平成十一年法律第百三号]第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十九条において同じ。>を除く。)が設置するもので第二章の規定による登録を受けたものを言う。

(なおこの条文は平成13年7月11日最終改訂のものです)

 「登録を受けたもの」という最後の部分の制約は、いわゆる「登録博物館」のみが博物館法によって縛られるものであることを言っています。しかし、登録博物館ではなくとも、博物館の機能を有していて博物館に求められる事業を行なっている、必ずしも公的ではない機関も多く存在するわけで、そのような機関を広い意味で「博物館」と呼ぶことができるでしょう。
 事実、博物館学においては、広い意味での博物館を「登録博物館」「博物館類似施設」「博物館相当施設」に分類できる、としてその研究対象として扱います。

「博物館」に対するけいりう堂の考え方について

 その意味において、図書館という機関は機能的にも博物館に共通する要素を多く有していますが、これを「博物館類似施設」や「博物館相当施設」と捉えることはないようです。

 登録博物館に限らない博物館の定義を明確にすることは困難ですが、博物館に共通する機能や事業を挙げ、これらの事項に多く合致するものほど「博物館らしい博物館である」と捉えることで、博物館を利用する側にとっては博物館とは何かということを理解するのに十分であろうと思います。
 このような捉え方によって博物館らしい博物館と思われるにも関わらずその主体側が「私どもは博物館ではございません」と考えている場合もひょっとしたら広い世の中に存在しているのかもしれませんが、わたしは寡聞にしてその例を知りません。

「博物館」に共通する機能

 博物館の中にも企業博物館のように企業のPRに主眼をおいたものがありますが、そうであっても教育的・文化的な公共サービスをおこなうという側面を持っています。博物館に共通する機能は大きくは以下の3つと言えるようです。

(1) 収集・保管
 博物館の起源をたどると、古代ギリシアで戦利品を神殿で公開したことや、ヨーロッパの大航海時代に王侯貴族たちが世界の珍しいものをコレクションした「驚異の部屋」ヴンダーカマーなどの事例に行き当たります。収蔵物が多数あるということはやはり博物館を博物館たらしめる要件と言えましょう。そしてそれらは未来のいかなる時点においても必要なときに展示されるべく保管されます。保管作業の中には修復の技術も含まれ、これを専門的に行なう人がコンサベーターとレストアラーです。さまざまな材質でできている資料の保管・修復のためには、もちろん多岐にわたる技術が必要となります。近年では環境保護の問題との両立が意識されており、繊維質でできた書物や衣類などの資料をいかに環境への悪影響を避けて虫から守るか、といった方法なども研究されています。
(2) 展示・教育
 実は常設展示が無いと言う博物館もあります。「そんなの博物館といって良いのか?」という議論もあるでしょうが、利潤を追求しない博物館の経営というのもなかなか難しいことで、常設展示を管理するだけのリソースが無いという事情もあることでしょう。とはいえ、企画展を定期的に開催したり、公開講座を主催したりして地域の生涯教育の拠点となるというのは特に公共団体の博物館には欠かせない使命であり、高齢化がますます進んでいく今後、この機能はさらに重要になることでしょう。
 学校教育においては、教育指導要領の見直しによって「総合的学習の時間」が小・中学校(2002)・高校(2003)の教育に取り入れられてから、博物館をこの学習のために利用することが多くなったようです。国立歴史民俗博物館では「みんぱっく」という学校教育用の収蔵資料貸し出しセットを用意しています。
(3) 調査・研究
 博物館のマネジメントを円滑にまわすためには、はじめての訪問者をキャッチする以上にリピーターを増やす努力をすることが効果的であるといわれます。リピーターを増やすためには、「訪れる度に新たな発見がある」という博物館の懐を深化させるたゆまぬ努力が必要となることでしょう。単にアカデミズムへの寄与というだけに留まらず、博物館経営の根幹にも大きく関わるのが、この調査・研究ということと思います。
 特定の収蔵物に関する調査・研究の結果は展示に生かされるのみならず、調査報告書や単行本などとして出版されることがあります。これらの書籍は書籍市場に出回ることが少ないので、ミュージアムショップの目玉商品として価値の高いものになる可能性があります。
 大学博物館や国立民族学博物館などは、この調査・研究の機能が他の機能以上に重視されているようです。

「博物館」が共通に行なっている事業

 博物館法の第3条には博物館がなすべき事業が明記されています。まずそれらを列挙しておきましょう。

  1. 実物・標本・模写・模型・文献・図表・写真・フィルム・レコード等博物館資料(以下単に『資料』)の豊富な収集と保管・展示。
  2. 資料の博物館外または分館における展示。
  3. 一般公衆に対する資料の利用に関する説明、助言、指導。また研究室、実験室、工作質、図書室などを設置し、一般公衆に利用させること。
  4. 資料そのものに関する専門的・技術的な調査研究。
  5. 資料の保管・展示に関する技術的研究。
  6. 資料に関する案内書・解説書・目録・図録・年報・調査研究の報告書等の作成と頒布。
  7. 資料に関する講演会・講習会・映写会・研究会などの主催および援助。
  8. 文化財保護法の適用を受けるその所在地域の文化財の解説書・目録を作成し、一般公衆の利便を図ること。
  9. 他の博物館および博物館と同一の目的をもつ国の施設などと良く連絡・協力し、刊行物・情報を交換し、資料を相互貸借する。
  10. 学校・図書館・研究所・公民館等の施設と協力し、援助する。

 項目8、9、10は博物館法の縛りをうける登録博物館固有の事業と言えそうですが、その他に関しては、法的に義務付けられてはいなくても、それら事業を行なうことが、当該の博物館を博物館らしくすることになるでしょう。

 一方、博物館に求められる機能が十分実現できず、博物館に求められる事業を行なっていないにも拘らず「博物館」という名称が使われる場合も多々ありますが、そのことを規制する法的根拠は無いようです。


【博物館法】

 こういうことを書くとさらに堅苦しいページになってしまいそうですが、この際「博物館法」を概観しておくことにします。

 博物館法は1951年に、「社会教育法」(1949)の精神に基づき公布された、ということです。全五章二十九条といくつかの附則からなります(以下は全文の引用ではありません)。

第一章 総則
第1条
 博物館法の目的。社会教育法の精神に基づき博物館の設置・運営に関する事項を定め、その健全な発達を図り、もって国民の教育・学術・文化の発展に寄与すること。
第2条
 博物館の定義。「博物館」とは、歴史・芸術・民俗・産業・自然科学等に関する資料を収集し、育成を含む保管を行ない、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養・調査研究・レクリエーション等に資するために必要な事業を行ない、併せてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関のうち、地方公共団体や(私)法人が設置するもので、さらに第二章による「登録」を受けたものであるとされています。
 このうち地方公共団体の設立したものを「公立博物館」、私法人の設置する博物館を「私立博物館」と呼ぶこと、博物館が収集・保管・展示する資料を「博物館資料」と呼ぶこともこの条文で定義されています。
 逆の見方をすると、登録されていない(広義の)博物館は博物館法に縛られない、ということになります。また、国立民族学博物館・国立歴史民俗博物館・国立美術館は博物館法に縛られていない、ということにもなるのです。
第3条
博物館の事業について。「博物館」が共通に行なっている事業の項で書きました。
第4条
博物館には博物館長と学芸員をおくこと。ちなみに日本の場合、選任の館長が少ないこと、学芸員の数が絶対的に足りないこと、館長の多くが博物館の分野の出身ではないことなどが問題とされています。
第5条
学芸員の資格。以下のどれかに該当すれば学芸員になる資格があります。ただし、資格を取ったからといって学芸員になれることが保証されている訳ではありません。
 
1.学士であって、博物館に関する科目の単位を修得した人。この科目は博物館施行規則第1条に定められており、以下のとおりです。(()内は単位数)
生涯学習概論(1) 博物館概論(2) 博物館経営論(1) 博物館資料論(1) 博物館情報論(1) 博物館実習(3) 視聴覚教育メディア論(1) 教育学概論(1) ちなみに放送大学では博物館実習以外の科目を履修することが可能です。
2.大学に2年以上在学し、上記の博物館に関する科目の単位を含め62単位以上を修得し、かつ3年以上学芸員補の職にあった人
3.文部科学大臣が文部科学省令で定めるところにより前各号に揚げるものと同等以上の学力及び経験を有すると認めたもの。このケースはいくつかあるようで、基本的には認定試験を受けることになりますが、無試験認定という制度もあります。
第6条
学芸員補の資格についてです。大学に入学できる人は学芸員補になる資格を持っています。
第7条 削除
第8条
設置及び運営上望ましい基準。この基準は文部科学大臣が定めて教育委員会に提示します。
第9条 削除
第二章 登録
第10条
登録。所在する都道府県の教育委員会に博物館登録原簿が備えられています。
第11条
登録の申請。登録申請書に、設置者の名称、博物館の名称、所在地などを記載して教育委員会に提出します。その他設置条例の写、観則の写、事業計画書などの書類が必要になります。
第12条
登録要件の審査。審査は所在の都道府県の教育委員会が行います。以下の要件を満たすかどうか審査します。
博物館の目的を達成するための博物館資料があるかどうか・同必要な学芸員と他の職員がいるかどうか・同必要な建物と土地があるかどうか・1年間に150日以上開館するかどうか
第13条
登録事項等の変更。変更は教育委員会に届けます。
第14条
登録の取り消し。要件を満たさなくなった博物館は登録が取り消されます。
第15条
博物館を廃止した場合も教育委員会に届けます。
第16条
規則への委任。説明略。
第17条 削除
第三章 公立博物館
第18条
公立博物館の設置に関する事項は該当する地方公共団体の条例で定めます。
第19条
公立博物館は該当の地方公共団体の教育委員会の所管に属します。
第20条
公立博物館には「博物館協議会」が置かれます。博物館協議会とは、博物館運営に関して館長の諮問に応じかつ館長に意見を述べる機関です。
第21条
博物館協議会の委員は学校教育関係者・社会教育関係者・学識経験者から、教育委員会が任命します。
第22条
博物館協議会に関する事柄は地方公共団体の条例で定めます。
第23条
この条文は問題とされるべきです。公立博物館は入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはいけないと明記されていますが、そのすぐあとで、「ただし維持運営のためにやむを得ない事情のあるときは必要な対価を徴収することができる」旨書かれていますので、実際のところ入館料を無料としている公立博物館は少ないのです。入館料を徴収するポリシーや用途を公開する義務もこの法律には定められていないので、有名無実ととられてもやむを得ないのではないでしょうか?
第24条
「国は公立博物館に補助をすることができる」旨書かれています。しかし1996年には社会教育施設設備費補助金の制度が廃止され、現在では設置に対する補助よりも、学芸員の人材育成や博物館サービスを充実させるための支援へと方向が変わってきています。
第25条 削除
第26条
  国の補助金の交付中止及び補助金の返還に関して。説明略。
第四章 私立博物館
第27条
  私立博物館と都道府県教育委員会の関係。教育委員会は博物館に対する指導資料を作るために私立博物館からの報告を求めることができ、私立博物館は教育委員会から、運営に関する指導・助言を得ることができます。
第28条
国と地方公共団体は私立博物館の求めに応じて必要な物資の確保につき援助することができます。
第五章 雑則
第29条
博物館相当施設について。博物館に類する事業を行なう施設を博物館相当施設と呼び、第27条に記載されたように文部科学省大臣や地方の教育委員会が指導・助言を与えることができます。
附則は省略。

成熟期にある現代の日本においては、生涯学習や総合的学習、ボランティア活動の拠点として、また地方の歴史の記録装置として、博物館の持つ意義は重要度を増していますが、利用者を主体とすべき現代の博物館に対して、この博物館法は古いものになりつつあると考えられています。


最後に、冒頭の疑問文に関して。ほとんどの「郷土資料館」は、その機能や事業によって、「博物館」と呼ぶにふさわしい機関といえるでしょう。ではラーメン博物館は博物館なのでしょうか。あえて結論は下しません。が、どうしても気になる人のために、追記を用意しました。ただしここに明快な答えが書かれていることは期待しないでください。

「ラーメン博物館は博物館か?」という問いについて