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2009-11-11 井上陽水のことなど。 [長年日記]
_ [音楽]井上陽水のことなど。
NHK・SONGSでこれから4週連続で放映がありますな。
というわけで今週が第1夜。語りが薬師丸ひろ子だというのがなんとなく思わせぶりなんだけど、ともかく番組の最初の曲は、「招待状のないショー」だった。
この歌はもしかしたら陽水の曲で一番好きかも知れない。少なくとも近頃カラオケで歌う陽水の曲としてはマイベストだ。そして、忘れられない思い出がある。
この曲が出たとき、私(たち)は14歳。この歳は、エヴァンゲリオンや楳図かずお的な意味で象徴的なのだが、ともかく、私はこの曲名を冠したLPレコードを友達から借りたんだった。
当時私の家にはステレオセットなど無かった。小さい時に父が買ってきたプラスチックでできたレコードプレーヤーだけがあった。友達Sがレコードを貸してくれても、それで聞くよりなかった。しかも私は、借りた物でも自分の物でもあまり物を大事に扱わない人間だった。それで、Sの貸してくれた「招待状のないショー」は傷がついて針が飛んでしまったのだった。仕方がなくてなけなしのおこずかいで買い直して、Sには新品のそれを「返し」た。Sの貸してくれて傷ついたLPはそのまま私の家に残った。。。
しばらくたって、そのSを含む何人かが我が家に遊びに来る機会があった。そのときに、本来はSのものだった「招待状のないショー」がSに見つかってしまった。たぶん、自分でも気に入ったから買ったとか、そんな言い訳をしたんだろう。それはそれでもまっとうな理由だし、何も問題はないのだ、そう思っていた。
Sは「これはけいりう堂のものなんだよね?」と、謎めいた言葉を言った。悪びれもせずにそうだ、と私は言ったのだと思う。
が、それからさらに後日。今はわたしのものとなったSの貸してくれたそのLPを見て唐突に気づいてしまった。LPレコードの、ラベルのさらに内側の部分に、コンパスの針のようなもので文字が書き込まれていたのだ。そのLPを購入した日付けと、購入者であるSの名前。
私が新品を返した時、Sは自分の刻んだ文字がそこに無いことにはすぐに気づいたんだろう。そして、私の家を訪ねて同じLPを見つけた時、そこに自分の刻んだ文字を見出したのだ。あの謎めいた言葉はそのことに私が気付いていないことを確かめる言葉だった。
Sはそのことを咎めることはその後もなかった。Sが交通事故で死んでしまったのはわたし(たち)が高校の2年くらいになったときだったろうか。Sと仲良くしていた旧友に偶然会ったときに、その旧友が言ったのだ。
「Sは天使になった。」
間違いなく天使、と言った。多分その通りなのだと思いたかった。そう思わなくてはSのことをあきらめきれなかったのだろう。それを告げた旧友も、自分も。
だから、「招待状のないショー」は私には特別な歌なのだ。自分だけのこのショー、好きな歌を思いのままに歌うこのショーは、いつも天使になったSに届いているに違いない。近頃はタバコもやめたからますます遥か遠くまで届いているはずだ。
変わらぬ言葉とこの胸が はるかな君のもとへ 届くように。。。