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2022-05-06 [長年日記]
_ [読書] 『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー、池田香代子訳、岩波、2006。
ここ数日の間にやったことの一つに、ケストナー『飛ぶ教室』を読んだ、というのがある。つい先ほど読み終わったばかり。ケストナーの作品は創元推理文庫で「ユーモア三部作」と呼ばれていた『一杯の珈琲から』『消え失せた密画』『雪の中の三人男』を高校時代に読んで好きな作家となったのだが、『エーミールと探偵たち』を読んだのも割と最近だったし、著名な児童文学よりも『ファービアン』とか『人生処方箋』なんかのほうを先に読んだ。
で、この本なのだが、タイトルだけから想像してたのと全然違った。確かにケストナーは、教室が空を飛ぶようなそのまんまのファンタジーを書くような作家ではなかった(ただ、そういうファンタジーをケストナー自身は書いていないが、という但し書きが付く)。これは、クリスマス・ストーリーであり、1933年というナチス党による焚書の行われた頃の作品であり、往時のギムナジウムの少年たちのお話。少年たちは様々な境遇を背負っていて、貧しくてクリスマスに帰省できなくて涙を堪えきれないものもいれば、親に捨てられたも同然にアメリカからドイツに来た者もいるし、小さな体で勇敢になりたいと切実に願う者もいて、一様に幸せな子供達ではない。子供時代にも大人に負けない人生の苦労があったのに、なぜ大人はそれを忘れるのか。
おそらく全てのケストナー作品に共通なのだろうが、この作でもいろいろなところにケストナーの批判精神が表れている。それは時の権力への精一杯の抵抗の言葉だったり、子供のお話といえばお花畑のようなお話と決まったステロタイプの作品の糾弾だったり、何度も繰り返し叫ばれる、子供の頃のことをよく覚えておいて欲しい、という願いだったり。この作品、ドイツでは3回ぐらい映画化されてるらしいが、今見られるのは最近作だけかも。ともかくケストナーはできるだけ読んでおきたいと思った。