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2008-02-16 「エピクロス」 [長年日記]
_ アタラクシア(心の平静)を失いがちの私は、今暇を見つけては日本の古本屋で購入した岩波文庫の「エピクロス」を読んでいる。
学生時代に読んでいたら、とつくづく思う。紀元前300年の哲学において、すでに現代科学的なものの見方が完成していたとしか思えない。
この人の哲学の流れを汲む人にルクレティウスがいる。学生時代にお世話になった教授が、おそらく「ものの本質について」に言及して、詩人の直観が現代科学を先取りすることに感銘を受けた、というようなことを言っていたのを覚えている。先生は2つの点で間違っていたのだ。まず、ルクレティウスは直観によって詩を書いたのではなく、エピクロスの哲学を詩によって表現したということだった。もうひとつ、そのエピクロスからルクレティウスへと伝わった哲学は、現代科学を先取りしたのではない。当時行い得るもっとも精細な観測と思索によって作られた哲学の内容を、その時代から現代に至る科学者たちが検証を重ねていったということだったのだ。物質の三体における原子の運動の在り方とか、光の性質、音の性質、時間とは何か、など。その中には当然反証されたものも多くある。が、特に物理学におけるものの見方はこの人の考えにかなり沿う形で発展していったように思えるのだ。20数世紀にわたる人の歴史の中で、技術の進歩は世界を物理的に大きく変えていったが、ものの本質に対する理解はそれに比べると非常に遅々としているように見える。逆に、現代人の理解はしっかりと古代人の理解したものに連結していたのだった。