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2006-03-12 [長年日記]
_ [読書] 『科学を絵に描いた男 田中豊一ゲルの世界を拓く』
朝のアニメと特撮を見てから少し寝ると午後になっていた。胃弱と昨日のウォーキングの疲れが出ていたらしい。
市立県立あわせて9冊も借りていた本を返しに。リュックの重たいこと。
SPC・最適配置などの本を借りた他、何となく『科学を絵に描いた男 田中豊一ゲルの世界を拓く』を借りてみた。
田中先生はゲルの膨潤・収縮が相転移現象を示すことをはじめて見出した人で、この辺りの成果は1980年代後半くらいのことだったと記憶している。ほぼ同時期に、ゾル=ゲル転移という別の相転移現象が気=液相転移や磁性相転移などの臨界現象と同様の普遍性を持つものである、というフランスのde Gennesに始まるトピックもあって、高分子の世界の中にこのブヨブヨが、まさしく膨潤していた。
学生時代にこのゲルを研究テーマにしていたこと、会社に入ってまもなくこの田中豊一さんの公演があったことを思い出しながら半分ほど読んでみた。学生時代の恩師なども筆を寄せている。
ここまで読んで面白かったのは、うんと初めのほうの、高分子の絡み合い相互作用などの理論に大きな業績のある土井正男先生の書いた「ゲルの物理学と田中豊一」という文章。イントロにふさわしく田中先生のあつかった仕事を非常にわかりやすくコンパクトに記述している。眼を惹いたのは「田中博士の論文を読むと式の展開など、細かな点では納得のいかない点がたくさんあります。けれど大筋では間違っていません。それは、田中博士が、頭で考えると言うより、心の中に全体の絵を描いてそれを語っていたからなのでしょう」という記述だった。
この種の分野との縁は全く薄くなってしまったが、事を為すということの厳しさと、その峻厳な壁を越えた境地でしか味わえない楽しさ、なんてものに想いをいたし、読む程に少なからず冷静でいられなくなるようだ。
こんな感情も春には似つかわしい。