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2015-08-05 [長年日記]
_ [読書]『「旅」の誕生』倉本一宏、河出ブックス、2015.
著者が1958年生まれと言う自分に近い年代だから、とも限らないのだろうが、軽い文章と感じてしまった。カッコ付きで書かれた私見も少々鼻に付いたりしてしまうのはまた仕方のないことかもしれない。それは中世以降の旅が個人的な体験と大きく関わっているということに関係しているだろう。古い時代の「旅」は個人の想いの発露によってなされるものでなく、所用を満たすために止む無くするものであったのと正反対に、現代においては「出張」を「旅」と呼ぶことに違和感を感じるようになっている。「旅」は”そぞろ神”の憑依と呼ぼうが道祖神の招きと呼ぼうが、自発的な欲求によって為されるものとなっているのである。だから旅を語るのに自らの体験とそれにからむ想い出を取り去ることは困難であるからだ。
さて本書。東海道を中心に古代から近世へと道筋とその景観・名所などが変遷するとともに旅人の気持ちの変化を追っている。参考の図版は最近の撮影になるものと思われる。多くの参考文献を挙げており概観を知るための本としては良いだろう。切り口に特に目新しさは感じられなかった。筆者は古記録学、古代政治学を専門とするとのことで、本書の内容は才溢れる筆者にとっては趣味や余興の範疇なのかもしれない。リラックスした文章はその故だろう。新刊を半年と置かずに読了するのは俺にとっては珍しい。