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2015-07-06 [長年日記]
_ [漫画]「傑作未刊行作品集003 現約聖書」ジョージ秋山、青林堂、2001.
子供の時に読んで、続きが気になるとか記憶を確かめたくなる作品はたくさんあるが、ジョージ秋山の作品はまさに「捨てがたい」ものだ。ギャグ漫画の描線で描かれた多くの過酷な状況は必ずしも一般に受けるものではないと思うが、「ガイコツくん」や「パットマンX」の頃からもすでに現実の厳しさや哀しさが扱われていた。初期の森田拳児を彷彿とさせる作品でこのマンガ家を知ったものは、その後の「アシュラ」や「銭ゲバ」や「告白」などで大きな衝撃を受けた。そこで離れた人も多かったろう。これらに比べて、さらにそのあとの「浮浪雲」は超俗的で(あまりにも俗であるとも、俗を越えているともとれる)、少なくとも俺の中では彼の評価がまたコロリと変わった。これらは本当に彼の作品群のごく一部に過ぎないのが、ジョージ秋山の怪物的なところだと思う。彼には非常に強い問題意識がある。それが俺には無い。俺には描き表わすべき何物もない。それが作家になれるものとなれない者との違いと言うべきかもしれない。
さて「現約聖書」を長く探し求めていたのは、その中の一作「樫原くんの日曜日」である。東京に集団就職で出てきた主人公の日曜。煙草を覚えたてで都会の暮らしにぎこちなくもなじんでいこうという17歳の男性。女に興味を持ったりしても奥手で手が出せない。何か新しいことをし始めようと思うのに結局いつものように喫茶店でモーニングセットを頼んで映画を見て五目ソバを食べる。一大決心をして大人びた格好に着替えてキャバレーに行こうとしても結局店に入れずにおでんの屋台で酒も飲まずにいつものネタを食べるうち夜中になる。気分を出して橋の上で川面を眺めているうちに何となく泣けてしまう。作品中ずっと、おそらく作者の心の声と思われるナレーションが続く。「でもこの川ほんとはとってもくさいんですよ」。このフレーズを40年以上忘れずにいた。忘れていた部分もたくさんあったが、彼の一人暮らしにはずっと憧れ続けていた。実際にそういう暮らしは寂しくてかなわないだろうと少しは思ったかもしれないが、自由さは素晴らしいと感じた。結局俺は、この作品の主人公樫原くんのような生活をし続けているように思うのだ。作中の五目そばもモーニングセットもおでんもとてもうまそうに思えた。実際に食してみればこんなもんか、というものには違いない。
面白いよね〜 <br>