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2016-09-02 [長年日記]
_ 普段人との会話はできる限り避けようとしているのだが、それが許されないときもある。今週はそういう週だったために、週後半から神経が疲弊している。以前はそんな時には禽鹿の道を踏み越えて人のおよそ訪ねない場所で野宿などしたりもした。
_ [テレビ] モーガン・フリーマン時空を超えて
「他人の脳をハッキングできるか」番組の提示する答えはもちろんYesである。いろいろ注目すべき内容が詰まっているが、普通の人をゾーン状態に導いて達人並みに訓練させるクリス・バーカーという神経科学者・技術者・経営者の研究に注目した。脳の活動を検出するセンサー(こういうものはこの手の番組に良く出てくるのだが、私にはこれの具体的な中身が良くわからない)を取り付け、達人が成功する時のパターンに近づいたときにそれを教える。これを使いながら課題をこなしていくと、達人並みに成功率が上がる、というもの。仮にこの発明が完成して、それが特定の権益から解放されて人類全体に普及したとき、その辺の誰しもが完璧な判断をするようになると期待できるのだが、その時の世界が幸福なものになるのかどうかが私にはまるで想像できない。私は基本的には人間はできる限り賢明であるべきだし、そうなる努力をすべきだと思う。だがそれが完全に達成されて均質となった世界は生きるに値するだろうか?そうなるまでの世界は希望に満ちているように見えるかもしれないが。
香りを利用して脳をハックするテクニックが示されている。イスラエルの心理学者イラナ・ヘアーストンはネズミの迷路実験をきっかけに、睡眠中の脳活動を研究し始めた。香りは視床−これは嗅覚以外の感覚を大脳皮質に中継するが、睡眠中にそれが働かなくなるため外からの刺激が大脳脂質に届くのを妨げることになる−を介すことなく直接大脳皮質を刺激する。一度香りがそうやって大脳皮質に侵入すると、それをきっかけにして他の刺激、例えば音のような感覚を大脳皮質に招き入れる、のだそうだ。この現象は香りの機能を実感している私には納得できるものだ。アロマテラピーはこのように大脳生理学と組み合わせて用いることで極めて有効な使い方ができることだろう。
オプシンという光センサを遺伝子操作により脳細胞に組み込み、外科手術で光ファイバを脳に埋め込むと、脳の特定の部位を光で刺激することができるようになり、結果行動を操作することが可能となる、という研究もある。悩まなくともやるべきことを外から与えてやることができ、それが行動するものの幸福にもつながるのだから、これは夢のような技術と言える。もちろんそんなテクノロジーを利用しなくともすでにそういう行動原理に支配されている人も数多くいることではあろう。これらの技術をチートと断ずるのはもはや古い考えであるかもしれない。
追記。先週の日記に「いよいよ『笑い男』が登場するのか」と書いたのだが、まあその通りな内容だった。ここに登場した多くの研究者たちの正義は必ずしも万人の正義に一致している保証が無いことが一つ。これら有能な人々の誰もが笑い男たりえる。もう一つは正義の捉え方・正義観の違いばかりではなく、そのときそのときの正義の捉え方に従いつつ進んだ結果、それが発効した時点における正義の在り方とずれてしまっている、と言う事態もあり得る、ということ。過去の人間にとって未来の人間に対する責任を維持し続けることは難しいことなのだ。少子化の世界にとってはそれは特に顕著なことだろう。かくしてテクノロジーは未来の被害者を無視して暴走し、それを駆使するハッカーもまた誕生する。