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けいりう堂日記

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2014-09-15 [長年日記]

_ まだ風邪。あとでどこかでティッシュを買ってこないと。鼻水が出過ぎて体が干からびる。


_ [読書] 『自省録』マルクス・アウレリウス、岩波文庫。

放送大学の面接授業で「『自省録』を読む」というのを受講することが決まったので、少しは読んでおこうという腹だ。この人はAD121-180のローマ人であり、第16代皇帝。同時代人としては天文地理学者プトレマイオスが有名。リドリー・スコットの「グラディエーター」はこの頃が舞台だが俺は見てない。アウレリウスはローマ五賢帝の一人でストア派の哲学に詳しかったが、蛮族を攻める遠征が長期化して国が疲弊した。この皇帝に関する歴史資料はどうやらあまり多くないようなのだが、彼の残した内省的な書物である『自省録』は後世にとってストア派の考え方を知るための基本文献であり、この書物のせいなのだろうか、プラトンの理想とした哲人皇帝の具現とみなされている。
 俺はそのようなバックグラウンドを知ったうえでこの講義を取ることにしたわけではなく、マルクス・アウレリウスも皇帝ではなくひょっとしたら教皇の一人と勘違いしていたんではないかと思う。そのような立場の人間の自省なら、信仰の揺らぎのような問題を扱っているのではないかと期待したのではなかっただろうか。それは全くの誤りだが、それはそれで良く、このような立場の人間の内省には別の興味がある。昭和天皇実録が出版されたら入手したいと思うのと変わらない思いだ。才能がありながら悩む(才能があるゆえに悩む?)人間の伝記を読むことは大きな慰めになるゆえだ。
 さて、俺の入手した岩波文庫版は、精神科医・神谷美恵子の訳になるものである。1914年に生まれたこの人は、1949年主婦業の傍らにこの翻訳書を創元社から出版した。この書は神谷美恵子にとっては座右の書であった。ハンセン病を知る以前は文学を目指した神谷であるが、1935年頃、当時死に至る病であった結核に罹患、死ぬまでに古典文学を読んでおきたいと願いイタリア語でダンテ、ドイツ語でヒルティ、古典ギリシャ語で新約聖書を読み、「自省録」もギリシャ語で読んだとのこと。このような体験が人間に深みを与えることは想像に難くない。たぶんこの人が訳しているのだから読んでみよう、という興味も俺にはある。この人のことは実は良く知らないのだが、シンプルな装丁でみすず書房から出版された多くの著作は書店で見かけるにつけ何か崇高なものを思わせずにおれなかったのだ。内容でなく装丁や標題に引付られ、それ自身のみですでに文学であるような作品。それを俺は「標題文学」と呼ぶのである。まだ『自省録』は第1巻の部分を読んだだけで、思想的な部分にはまだ触れていない。もちろんこの記事も、読むきっかけやその動機に関わるミスクだけを書いた。『自省録』もまたそれ自体あまりまとまりのある文章ではないらしい。この記事、俺の考え以外の部分はすべて参考はウィキペディアであり、それに感謝。


_ どうもBDへのダビングに失敗する。VictorのBV-R130K50Wを愛用してたが、ロットによってはずいぶん失敗があるようだ。なので違うメーカーを試そうと思ったはずなのに、どうやらまたビクターを買ってしまったらしい。BV-R130U50W。こっちのが少し安い。買ってしまったんだから仕方なく使うが、移動でダビングするとせっかくの録画を失ってしまうことになりかねず、コピーでダビングして成功したことを確認してやっと元を消す。効率悪いのである。作業しながら鴎外の孫命名の番組見てた。明治の文豪は漱石にせよ鴎外にせよ漢籍の知識が十分にあった上でさらに英語だのドイツ語だのフランス語だのを、しかも今の俺から見れば若年のうちにしっかり身に着けているところが敵わないと思うのである。


_ [読書] 『論理哲学論考』ヴィトゲンシュタイン、野矢訳、岩波文庫、2003。

そうこうしてると本日2度目のヤマトさん訪問である。ヴィトゲンシュタイン「論理哲学論考」が届いてしまった。読破する自信が無かったので中古を買ったが、若干角折れがあった程度で問題は無いようだ。パラパラ読む。底本は1933年の改訂版。公理大系のように書かれているのでスピノザの「エチカ」のように読みにくい(20年くらい前に挫折してる。今読んでも読みにくいかどうかは良くわからない)のではと危惧してたが、必ずしもそういうことばかり書かれているのではなさそうで、「太陽が明日も昇るだろうというのは一つの仮説にすぎない」とか、「世界の意義は世界の外に無ければならない」とか、「死は人生のできごとではない。ひとは死を体験しない」とか、ヴィトゲンシュタインの意図とは必ずしも一致しないとしても、納得できたり、納得できなくとも一考に値するquoteで満ち溢れている。そこが、「『危険』に満ちている」とされる所以なのかもしれない。訳者野矢茂樹さんの解説には「それにしても、『論考』という著作は妖しい光を放っている。読む者を射抜き、立ちすくませ、うっとりとさせる力を擁している。…うっとりしながら哲学することはできない」とある。青春時代にこれを読んでいたら少し人生観は変わったのだろうか。バートランド・ラッセルによる解説付き。無理して買った価値はあったようだ。読破できないかもしれないけど。

追記。「論じえないものについては人は沈黙せねばならない」はこの書の最後を締めくくる言葉である。が、quoteの対となる「およそ語られうることは明晰に語られうる」がどこにあるのかはパラパラ読んだだけでは見出せなかった。少なくとも二つの言葉は隣接して置かれているものではない、本書においては。

追追記。二つの言葉は「序」において並んでいた。これは本書全体の要約と書いてあるから、もうここだけ読めば良いようなものなのかもしれない。

追追追記。原題Tractatus Logico-philosophicusは、スピノザのTractatus Theologico-Politicus(日本では『神学・政治論』)のオマージュである、とのこと(英語版Wikipediaによる)。


_ 先日のトノーニ先生の統合情報理論の論文はここで読める。


_ 人の世では今「花子とアン」が人気だ。美輪さんの印象的なナレーションも手伝っているのだろう。俺も実家に帰ったら親が見てるので良く真似してるがそんなに受けない。俺なんかいまだに「あまちゃん」の16話辺り見てるんだよ。どいつもこいつもついこないだまで「じぇじぇ」とか言ってたくせに今は「てえ」とか言ってるし。でも「こぴっと」はちょっと好き。「ピコットさん」みたいで。しかし「ピコットさん」っていったい何者なんだ?ちなみに「ピコットさん」作詞した香山美子さんは東京生まれで山梨じゃないし、女優の香山美子さんとも別人だ。しかも「かやま」じゃなくて「こうやま」と読む。また些事が記憶されてしまった。


_ かくして死を経験しえない人間にあって苦悩を生むのは日々の生である。特にこの3連休は風邪で閉じこもっていたのが良くない。ただ、洗濯と録画の整理は結構捗った。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ きだ (2014-09-15 20:55)

知らない間に、BD-Rびっくりするほど安くなったんですね。 <br>かつて、増え続けるDVDメディアを整理しきれなくなって <br>HDD保存に変えた身としては、BDで管理できてるのはうらやましいです。 <br> <br>死を本能以外で解釈しようとするのは人間だけな気がしますが、それが幸せなことなのかはよくわからないです。 <br>あ、風邪の方、お大事に。

_ けい (2014-09-15 21:15)

DVDからBDに移行したときは「これで枚数が節約できる!」と確信したのに、結局俺はジェヴォンスのパラドクスに敗北しました。整理できてるなんてとんでもない。 <br>そういえば人間以外はきっとエピクロスが語った境地にすでにいるのでしょうね。死後のことを思って悩むことが無いという点で。


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