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けいりう堂日記

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2024-06-30 [長年日記]

 放送大学の面接授業が終わってゆっくりとした休日。ここのところはその授業で行なうプレゼンの準備に、「趣味の」というには必要以上の手間をかけていた。多少寝不足気味もありつつも何とか準備を整えて、当日は午後からのプレゼンに臨んでいたのだった。
 先日も、このクラスには結構な割合でシニアの方が存在していて、その態度があまり評価できるものではない、ということを書いたのだが、特にその傾向が顕著な方がその日の昼休みも例によって大声で語っている。講師の先生の講義の話題があちこちにいっていて一体どこに辿り着こうとしているのかわからない、とか、先生の話ぶりが良くない、文末がはっきりせずもごもご言っていてわからない、などと。僕もそのことは感じてはいたのだが、ここは義務教育の場でないのだから、講師の個性は大いに出て構わないとも思っていた。何より、その世界の一線で活躍していた経験をお持ちの先生が多く、そんな体験を伺えることは、入学資格のほとんど存在しないこの大学の大きな魅力だと思っている。その気になればいくらでも深く学べる場所なのだ。僕ら学生はその切っ掛けを沢山与えられる。そこから何かを学び取って更に自らを深耕するかどうかは全く僕ら学生に委ねられているのだ。こういう学校がどんどん出てくれば良い気もするが、問題は、全ての学生がそう考えてもいない、ということなのだ。学生の年齢層も、経歴も全くバラバラで、特にそんな学生たちと顔を合わる面接授業の先生は、一体どんなレベルで講義をすれば良いかにはよほど苦心することだろう。大声さんの声を我慢してあとわずかの休憩時間を過ごそうと目をつむっていたのだが、彼は言ったのだ。「その語尾を濁すような語り口は、まるで娘の婿にそっくりだ。」

「僕は面白いと思いますけどね」

 目をつむった僕の口から、思いのほか大きな声でそんな言葉がでてしまった。これ以上不快で、家族にであれ他人にであれ敬意の存在しないアニマルワールドの言葉を人間界の中で聞きつづけるのは苦痛だったのだ。そして、ああ言ってしまった、と思ったが、それで彼の垂れ流す言葉は途切れた。たぶん教室の空気も冷えたのだろう。やや間があって、彼が「面白いって?何を」と言う。「講義の内容がです」「先生の話し方が面白いというのか何なのか」彼はまだ自分に向けられた批判を受け入れられずにこちらを見て話を続けようとしたが、すでに当の先生も教室に入られ、それ以上のことは起きなかった。ただ、僕は自分の発言によって自分の心拍を上げてしまった。プレゼンの一番手は僕だったのだ。10分ほどのプレゼンは、寝不足と興奮とによって始終声が上ずりがちで息苦しいのもとなった。それが無ければこれまでに用意したプレゼンの中でも良い仕上がりだった。先生も興味深く思われたようで、質問コメントが長引いてしまい、発表順が最後のほうの方がイラつかれていたようでもあった。
 9人ほどの発表者の中には、さすがにプロフェッショナルをうかがわせるものもいくつかあり、僕が興味を持っていても手を出せずにいた分析法をうまく使っているものには感心した。GISデータを使った確率の推定やモデル化なども面白かった。そして、等の大声氏は、初めに課題の趣旨を取り違えていて十分なものが用意できなかったことを詫びてから、どこからか蒐集してきた数値を棒グラフや折れ線グラフで延々と見せ続けていた。ところどころ「こんなことになっていて」とか「みなさんどうしますか」などと警句とも取れないような音を発していた。いつまで続くのか、話はどこに帰着するのか。先ほどの先生への批判をそっくりお返ししたいような内容と言っていい。先生はすべての学生に対して敬意を持って問いやコメントを発しておられた。大声氏に対してもだ。こういう態度は学ばねばならないことの一つだ。僕は全く人間ができていない。そしてふと気づいた。先ほどの授業への批判は、授業の意図を理解することができずせいぜいこんなことしかできないという自分への引け目の裏返しだったのではないか。せめてそう考えてあげたかった。言っている偉そうなことと実際に自らのできることがこんなにもあまりにかけ離れている人間が存在しているということを信じたくなかった。彼が僕の遠からぬ未来の姿であるかも知れないとは信じたくなかった。しかし、「偉そうなことを言っていても結局ここまでしかできなかったんだよね」などとひそかに留飲を下げている自分もそこにいたのだった。彼はプレゼンの始終人の発表に特に意味のない合いの手を必ず一言は入れ続けていた。そういう風に生き続けてきたのだろう。修正するだけの知恵も動機も彼には無い。これは僕の未来の一つの、ただし低い確率であってほしい未来の一つのシナリオだが、そうなったとしても非難すべき娘婿など僕にいないということは幸運なことだ。講義内容以外の大事なことまで教えてくれる放送大学とは誠に得難い教育の場である。シニアとしての生き方に対する沢山の反面教師がいる。僕はそこまで求めちゃいないけれど。ただ、必要とあらば自分の弱みをさらけ出せる勇気は実力の裏付けがあってこそのことなのだ、ということは胸に刻んでおきたい。面接授業では何かが起こる。適度に楽しめるくらいの頻度で、今後も受け続けよう。

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