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2021-03-31 [長年日記]
_ 3月最終日。今日の夕刻は、市立図書館に予約してた本を取りに。ボルツマン先生の『気体論の講義』である。思ったより分厚く、去年の12月に出たばかりの和訳で流石にまだ新刊が定価で売られている。売られているが、7000円を超える。それでとりあえず英語版のペーパーバックを少し前に注文していたのだが、今日図書館で借りた和訳版を見て、これは買う以外に道は無いと思い知ったのであった。今少しやっているのは太陽の脇を通り過ぎる彗星の軌道みたいな計算なのだが、天体とは違って言わば反重力のような力が働いているので彗星は太陽に近づけば近づくほど弾き返されるような軌道を描くことになる。大概の本には太陽に向かって来るその星の軌道が、太陽にまっすぐ向かうのではなく距離bだけ逸れた向きで近づいてきたら、太陽を通り過ぎたあとの軌道はどのくらい弾かれることになるか、という問題を掲げてそれを解く。このbのことは衝撃パラメータとか衝突パラメータとか呼ぶのだが、どの本も一様に記号bで表しているのがちょっと不思議だった。しかし今日わかった。この本でボルツマン先生が何と同じ記号bを使って問題を解いているではないか!これが初出かどうかはまだ私にはわからないが、初出である可能性は高いと思う。その記号を使って自分も同種の、ただもっと簡単な、問題を解こうとしているのだ。そう思うとやはりボルツマン先生には自分たちも大きくその影響を受けているのだなあ、なんて改めて思ったのだ。これはこちらから向こうへの一方的なものではあるが「絆」と呼んでも良いのでは無いか。親しげに会話したり、いつもつるんでいることなんかよりもずっと確かに思える繋がりだ。時空を超えて人を繋ぐものは思想なのだ。ボルツマン先生が生きた時代、必ずしも分子が運動しているということは常識では無かった。著名な物理学者にも原子・分子の存在を認めない人はいた。気体とは分子が激しく運動している状態なのだということは、深い洞察と自然の観察によって古代ギリシアの哲人たちがもたらした自然の見方、つまり思想だった。近代の科学者がその思想をさらに精緻に表現して今に至っているのだ。ルクレチウスの残した詩に書かれたその思想を発見したときの寺田寅人先生の驚嘆に思いを馳せる年度末となった。
_ 遺憾遺憾、大事なこと書き忘れた。ゆうきまさみさんのロングインタビュー、今日届いた。読むの楽しみー。