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2005-10-26 [長年日記]
_ [読書][交通史] 『伊勢物語』『東關紀行・海道記』
昔の道のことを考えていて、そう言えば「伊勢物語」に蔦(つた)の細道が現われる下りはどういう話なのだったろうか、と思い至る。
会社帰りに書店によって岩波文庫版を購入。こんなに薄いのに400円もするんだなあ、なんて思った。昔の岩波文庫は背表紙に星の数で値段を表示していた。☆一つ100円、★一つ50円だったのを覚えている。高校のときに古典で習ったからとて背伸びして買ったときは幾らだったろう。☆★位ではなかったろうか。モーパッサンの「脂肪の塊」が★で一番安かったような記憶がある。マイルドセブンの値段は150円だった。
年のわかる話題はさておき、岩波文庫版『伊勢物語』は高校生のわたしにはかなり背伸びした書物だった。それでも確か読み通したのだ、コタツにもぐりながら、意味が良くわからないままに。あの頃はわたしにとって文庫本は神聖なものだった。ジュニア物から「本当の小説」への旅立ちのように思っていた。やがてサントリーの角のCMで文庫本読みながら旅先の宿で角を飲む顔の見えない男に憧れた。そして文庫本は独り酒の肴になった。だからその頃読んだ本の内容は覚えていないことが多い。
蔦の細道は、東海道で安倍川を越えた先にある丸子(まりこ)の集落の先宇津ノ谷峠を通る道で、近世の東海道の東側にある。舗装などされていない峠道のままの風情で、往時の「むかしをとこ」はここで知り合いに出会って「駿河なる宇津の山べのうつゝにも 夢にも人にあはぬなりけり」と読んだことになっている。4年ほど前に歩いたときは木立にさえぎられてろくに陽も射さない急坂の道であった。今もおそらく。
20数年もたって読み返すと、この段は有名な「八橋」のエピソードと同じ段であった。八橋の古跡は愛知県の知立だが、ここに伊勢物語の風情はもう全く無い。「むかしをとこ」は京-知立-宇津ノ谷の東下りの果てに隅田川で都鳥を見て都からはるばる来てしまったなあ、と都鳥の歌を歌うのだ。
書店の岩波文庫の棚には『東關紀行・海道記』というこれまた薄いくせに500円もする本があった。海道記という名は街道関係の文献に時々現われるので、これも購入。こちらは鎌倉時代のもので収録される2編共に作者は不明。そしてやはり『伊勢物語』と同様、現代文は載っていないのである。